マイ・ワンダー・スタジオ
教訓のある寓話:クマのボリス
金曜日, 2月 28, 2020

教訓のある寓話:クマのボリス

(アフリカの古い寓話に基づいて)

批評や称賛をしているのが誰なのか、よく考えてみよう。

 「悪くないぞ。」 大きな鏡の前で後ろ足で立ち上がって体をゆすりながら、大きな若いロシアの黒クマのボリスがつぶやいた。「もう1度やってみるか。」

 ボリスがMP3プレーヤーのボタンを押すと、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』の続きが流れた。そこで、ぎこちない様子で片足でスピンしようとすると、あお向けに転んでしまった。起き上がってさらに何度か挑戦すると、やっとのことで、ワルツの基本の最初のステップができた。

 ボリスはつぶやいた。「上出来じゃないか。賢いサルの友達ガリバルディに見せられるぞ。彼のオルガンのリハーサルも、そろそろ終わったころだろう。」

 MP3プレーヤーをかかえ、うぬぼれた笑みを浮かべながら、ボリスはドタドタとテントから出て行った。

 あわただしいサーカスの団員達やらトレーラーやら色とりどりのテントの間を通り抜けると、ボリスは、牧場に沿って広がる草地に着いた。そこには、赤と金色の刺繍がほどこされた、いつものピルボックス帽子*に、おそろいのベストを着た、ガリバルディがいた。彼は柵の上に座って、バナナをほおばっていた。(*ピルボックス帽子:小さい円筒形の縁なし帽子)

 「きれいな夕焼けだね。」と、ガリバルディが言った。

 「ああ。リハーサルはどうだった?」と、ボリス。

 「まあまあかな。ぼくは飲み込みが少しばかり遅いって、ジャコモに言われたよ。だけど、彼は今日、できたばかりの新しい曲を使ったんだ。ぼくが全然知らない曲をね。」

 「ふ~む。それはずるいよね。」と、ボリス。

 「そうかもしれないけど、主人を責める訳にもいかないな。正直言うと、ぼくは最近、なまけてたんだ。だから、もっと練習しなくちゃいけないってことさ。『練習することで完璧にできるようになる』って言うだろ? バナナ、食べるかい?」

 ボリスは首を横に振った。

 「で、どうしたんだい?」

 「ダンシング・ベアー・オーディションに出るために練習してるんだ。」と、ボリス。

 「本当かい? ニキータは認めてくれるかな?」

 「ああ。圧倒されると思うよ。モスクワ・サーカスだって入れるかも。」

 「すごいね。野心満々じゃないか。」

 ボリスはニヤリと笑った。「ぼくには夢があるんだ。この安物のオルガ・カザコフの巡業サーカスは、本物のかっこいいサーカスとはほど遠いからね。」

 「それはどうかな。ぼく達は小さなサーカス団だけど、行く先々の村で、テントは満員になるよ。それに何よりも、子供達が大喜びしてくれる。それはともかくとして、MP3プレーヤーを持って来たってことは、実演して見せてくれるってこと?」

 「そうなんだ! 君の感想を聞きたくてね。」

 『くるみ割り人形』の美しいメロディーが夕方のそよ風に乗って流れると、ボリスは何度か転びそうになりながらも、不器用ではあるけれど、誇らしげに、初心者のワルツのステップをおどって見せた。

 「さてと。どう思うかい?」 最後には息を切らしながら、ボリスがたずねた。

 ガリバルディは顔を曇らせた。息を吸い込むと、済まなさそうにほほ笑んで言った。「正直に言っていいのかい?」

 「もちろんさ、ガリ。君は友達だもの。君の意見は大切なんだ。」

 ガリバルディは眉間にしわを寄せ、小さなフォークのようなヒゲを引っ張って言った。「そうだなぁ・・・最初にしては、とてもいいと思うよ。」

 「最初にしてはとてもいいって、どういう意味だい?」

 「その言葉通りのことだよ。君には素質があるけど、もうちょっと練習が必要だと思うんだ。いや、本当に正直に言うなら、もっともっと練習したほうがいいと思う」。

  • ボリスの目は怒りに満ちた。「君は自分の言ってることが分かってないね。ぼくは君とちがって、振り付けを真剣にやってるんだ。結局のところ、君はただ、くだらないおふざけでウンパッパってやってるだけじゃないか。」

 ガリバルディはもう1本のバナナの皮をむきながら、しんぼう強く言った。「確かにそうかもね。だけど、子供達は笑ってくれるし、自分では、けっこうよくやってると思ってるんだ。」

 「あほらしい。」 そう言うと、ボリスは怒って牧草地を勢いよく出て行った。

 「ニキータはクマのベテラントレーナーなんだ。きっと気に入ってくれるさ!」と、ボリスは肩越しに叫んだ。

 「もぢろん、ぎに 入っで もらえるざ。」 牧場の柵の向こう側から、ズルズルと大きな音を立てながら、甲高いガラガラ声で言うのが聞こえた。ボリスが柵越しによく見てみると、そこには、臭い肥やしや残飯にまみれた巨大なブタがいて、腐ったリンゴの芯を頬張っていた。

 「今、何て言ったんだい?」 ボリスは鼻をつまみながらたずねた。

 「ニギーダが ぎに入っでぐれるだろうって言ったんだ。」 ブタは、口をピチャピチャさせながら答えた。「さっぎの ギミの バフォーマンズを見でだんだが、ギミのサル友は、派手な帽子をがぶっで、ワゲの分がらんごどを言っでだってごどさ。」

 「つまり、ぼくは練習する必要がないってこと?」

 ブタは笑って言った。「いやいや、そういうごどじゃない。気楽にやっで、心配すんなっでごどざ。ギミもオレ様も、よくやってるっでごどよ。」

 ボリスは鼻をつまみ、ゾッとしながら、しばらくブタを見つめていたが、「ありがとう」とつぶやいて、ゆっくりとその場を立ち去った。

 日もすっかり暮れ、ボリスはサーカステントの灯りに向かって歩きながら、今日見たブタの姿や音やにおいのことを思いながら、ガリバルディの助言について考え直してみた。

 「やっぱり友達の言うことが正しいよね。練習が完璧さを生み出すんだ。」 そうつぶやきながら、ボリスは、オルガ・カザコフの巡業サーカス団のダンシング・ベアー・オーディションを受けるには、少なくとも3か月間は真面目に練習に励もうと決心したのだった。

文:ギルバート・フェントン 絵:ジェレミー デザイン:ロイ・エバンス
出版:マイ・ワンダー・スタジオ Copyright © 2020年、ファミリーインターナショナル
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タグ: 批判的な考え方, 教訓のある寓話, 子供のための物語